視覚障害者の誘導方法

はじめに 
街の中で視覚障害者(目の不自由な人)が立ち止まって考え込んでいたり、交差点などで困っていたりしているようでしたら、「どちらへいらっしゃるのですか?」「ご案内しましょうか?」などとひとこと声をかけてください。視覚障害者は道に迷って困っていても、誰がどこにいるのか分からないために自分から声をかけにくいのです。この時、いきなり視覚障害者の身体に触ったり、手を握ったりするとおどろいてしまいますので必ず一声かけてから行ってください。視覚障害者を誘導するために最も大切なことは誘導者と視覚障害者のコミュニケーションです。何かする時や環境の変化があったときは、一声かけてお互いに状況を共有しながら誘導するようにすることが大切です。尚、このページに書かれている誘導の方法が全てではありません。視覚障害者によってやりやすい方法があります。このようにして欲しいと依頼があればその方法で誘導してください。

誘導の基本姿勢 
視覚障害者に誘導者の肘の上を握ってもらう
誘導者は視覚障害者の半歩前に立ち、肘の上を握ってもらいます。「肘の上を持ってください」と声をかけてから視覚障害者の手を自分の肘に誘導します。視覚障害者は腕を曲げることにより、自然に半歩後ろになり安心して歩けます。

視覚障害者の誘導方法
誘導する腕は
誘導する腕は、左右どちらでも構いませんが、普通は白杖を持っていない側に立ちます。しかし危険な所は、視覚障害者がより安全な側にいるようにします。車道と歩道の区別が無いような狭い道路は路肩側の肘を持ってもらうほうが良いでしょう。

誘導の仕方
誘導者は握られた腕は自然に下におろし、歩く時は前後に振ったり、脇から離したりしないようにしてください。身長差や視覚障害者の好みに応じて肩やひじの下を持たせてもかまいません。後ろから押したり、白杖を持ったり手や衣服を引っ張ったりしないでください。視覚障害者は誘導者の後方から歩いていくのが安心なのです。

歩く早さ
歩く早さは、相手に合わせるようにしてください。誘導する時の視覚障害者の肘の握り方でその不安度が分かります。強く握られたり、後ろに引っ張られるように感じるときは、歩行に不安を持っていたり、早すぎると思われますので速度をゆるめてください

2人分の幅を確保・高さも忘れずに 2人分の幅を確保・高さも忘れずに
誘導者は、常に2人分の幅を確保しながら誘導しなければなりません。誘導者は、視覚障害者に肘を持ってもらっている側に余裕を持って歩くようにしてください。又足元だけでなく顔や頭、腕など身体全体に障害物が当たらないように気を配ってください。健常者には見えていても視覚障害者には見えていないので避けることができないのです
街中での対応
狭いところや人ごみの中での誘導 狭いところや人ごみの中での誘導
2人分の幅を確保できない狭い所や人ごみの中は、誘導者が「狭いので私の後ろを歩いてもらいます」と声をかけて、視覚障害者に誘導者の真後ろに入ってもらい、一列になって歩きます。この時誘導者は、視覚障害者に肘を持ってもらっている側の腕を身体の後ろにまわして、足がつかえないように腕を充分のばして誘導します。このような状態が長く続き疲れた時は、視覚障害者が誘導者の肩や背に手を当ててもらいながら誘導することもできます

段差や坂道がある場合
わずかな段差がある場合、健常者であれば視覚に入った段差に対して歩幅を調整してまたいだり、足の上げ下げの調整を自然に行いますが、視覚障害者の場合は段差があることがわからないので歩幅を調整したりすることができません。健常者が暗い道で空を踏むのと同じ状態です。「段差があります」と声をかけてスピードを緩めて歩幅を調整してあげてください。上り坂や下り坂についても「ゆるい上り坂です」「急な下り坂です」と声をかけてください

階段の昇り降り
階段の昇り降り1

階段の昇り降り2
階段は段に対して直角に近づき、「昇り(降り)の階段です」とひと声かけてから、誘導者はまず一段昇って、又は片足だけ昇っていったん止まります。視覚障害者が足先などで階段を確認したら視覚障害者の歩調にあわせて一段先を昇ります。昇降中は危険ですので斜めに進んだり、用もないのに途中で立ち止まったり、振り返ったりせず、リズム良く昇降します。最後の段には、視覚障害者が上る余地を考えて少々前に位置するようにして上り、そして、止まって視覚障害者を待ちます。その際、誘導者の足は動かさないようにします。少しでも動くと、視覚障害者にはまだ階段が続くように感じてしまいます。最後の段に視覚障害者が上った時に「階段はおわりです」というように一声かけるようにします。又は踊り場あるいは最終段に着いたとき、誘導者は「あと一段で終わりです」等と階段が終わりになることを知らせます。階段に手すりがあれば希望を尋ねて手すりを使用してください。らせん階段では視覚障害者が幅の広い外側を歩いたほうが安全です。

溝などをまたぐ
溝に直角に立ち、誘導者は視覚障害者が足を置く余地を考えて、少々前に位置するようにしてまたぎます。そして、立ち止まり、視覚障害者がまたぐのを待ちます。その際、誘導者の足は動かさないようにします。この誘導者が先に渡るということにより、視覚障害者の誘導されている腕が伸びてどのくらいの幅の溝かが視覚障害者に理解してもらえる場合があります。白杖を使う方法もあります。覚障害者がまたいだあと足を置けばよい位置を視覚障害者の持っている白杖で示します。そして、2人同時にまたぎます。ただ、白杖で示す時は、視覚障害者にその白杖に触れることを前もってことわって下さい。溝をまたぐ方法はいくつかありますので、その場に応じて適切に判断して下さい

斜め歩きや斜め昇降をしない
視覚障害者はホームや階段から落ちないためには、線路や階段にまっすぐにむかっている必要があります。そのために絶えず歩いている方向(角度)を意識していたいのです。慣れたところでは、頭の中に「メンタル・マップ」という地図が描けています。点字ブロックをはずれて近道をされては困ることがあります。点字ブロックの上を歩くようにしてください
電車の利用 
1 切符の購入
自動販売機は視覚障害者にとってはあつかいにくいものです。そのため、切符は誘導者が2人分をまとめて購入してもよいでしょう。鉄道会社の多くは身体障害者用の割引を実施していますので、係員に相談して利用してください

改札口の通過
駅の改札口の通過は狭いところの誘導と同じように一列になり通過します。切符は誘導者が2人分を渡します。自動式の改札口は2人分の切符を重ならないように一枚ずついれて、一列になって通過、順番に出てくる切符を2枚とるようにします。自分で切符を処理したいと希望する場合は切符を入れる場所や係員のいる場所を指示してあげてください

電車の乗り降り1
電車の乗り降り2
電車の乗り降り
電車の乗降の際は、ホームと電車の間にすき間がありますので、この点に充分注意しなければなりません。ドアの正面に立ち、ホームに対してまっすぐに近づき、ホームの縁にできるだけ近づいて並ぶようにして、ちょっと立ち止まります。「乗ります」と声をかけて誘導者が先に乗り込んで視覚障害者が続きます。誘導の基本姿勢のまま乗り込むと、半歩後ろにいる視覚障害者は電車とホームの間に足を落としやすくなるので気をつけてください
また、不安なときは、視覚障害者の手を入り口の手すりに誘導して、それからホームの縁を確認してもらって乗り込んでください。降りるときも同じ要領で降り口を確かめてから降りてください。その他、電車の乗降は、このホームと電車の間のすき間を溝と考えれば、溝をまたぐ時と基本的には同様の方法で行うことができます。必要に応じてその視覚障害者と話し合いながら判断して下さい。

座席への誘導
座席に誘導する場合は、視覚障害者のひざを座席に触れさせて、座るように声をかけてください

混雑しているホームでは
混雑しているホーム等の歩行では、危険なことなどのないよう特に注意が必要です。また、急がず、人の流れが途切れるまで待ってから、歩き出すようにしてもよいでしょう
バスの乗り降り
バスの乗り降りは階段と同じ要領で、誘導者が一段先に乗降する形で行ないます。しかし、一つ一つのステップが高いため、手すりを利用したほうがより安全です。必要であれば手すりに触れさせてあげ、単独での乗降でも問題ありません。その際、誘導者は乗車する時は後ろから、降車する時は先にして転落や踏み外しなどに対応できるようにしてください。料金の支払いや座席への誘導については基本的に電車と同様です 自動車の乗り降り
自動車の乗り降り
視覚障害者をドアのすぐそばまで誘導して、右手を車の屋根に、左手をドアに触れさせてあげてください。白杖を持っているときは、手を車に誘導する前に預かってください。ドアの開閉は誘導者がひと声かけながら行い、乗車は視覚障害者が先、降車は誘導者が先です
エスカレーターの利用 
スカレーターに直角に近づき、エスカレーターを利用することと、上りか、下りかを告げます。そして、視覚障害者に手すりを持たせてあげ、「乗ります」と言いながらタイミングよく誘導者と視覚障害者が同時に同じ段に乗ります。エスカレーターから降りる場合は「降ります」と言いながら一緒にタイミング良く降ります。この他に誘導者が一段先の段に乗る方法や、誘導をやめて視覚障害者に単独で利用する方法などいくつかの方法があります。エスカレーターを利用する場合は視覚障害者と良く相談して判断してください
視覚障害者から離れる必要がある場合 
切符を買いに行く時など、誘導中に視覚障害者から離れなければならない時は、壁、柱などに触れさせて下さい。空間に一人でいると不安感を感じる方もいますので注意が必要です
日常生活に必要な誘導 
椅子に座る時 椅子に座る時
椅子に腰かける時は、椅子の上にものが置かれていないか確かめます。ひと声かけて視覚障害者の手を椅子の背に触れさせ、テーブルがある場合はもう片方の手をテーブルに触れさせてあげてください。腰かける動作に手助けは必要ありません。また、背もたれの無い椅子の場合は、座席に触れさせ椅子の形を自分で確認するようにしてあげてください。

トイレへの誘導
外出先でのトイレの利用は視覚障害者にとって不自由なことの一つです。トイレに誘導し、必要ならば、便器の位置、カギの開閉方法、利用する向き、トイレットペーパーの位置、水洗の方法、手洗いの位置等を説明し、利用している時は外で待っていて下さい。視覚障害者が異性の場合は、そのトイレを利用する同性の方に誘導を依頼して下さい。

物の位置・飲食の際は 物の位置・飲食の際は
テーブルの上の物の位置は、時計の文字盤を例にとって説明します。例えば「3時の位置にコーヒーがあります」「9時の位置はプリンです」と言った具合です。方向もこの要領で「2時の方向に駅があります」と言う説明をすることもできます。飲食する時は同じ要領で食器、お皿の中の食べ物の位置を時計の文字盤を例にとり説明し、必要であれば、そっと食器に触れさせてあげてください。特に熱いスープ類などの場合は注意が必要です

道案内
街で出会った視覚障害者に道や方向・方角を教えてあげる時には、左、右、前、後、方角等を使ってもらえればいいのですが、その際「あっち」、「こっち」といった言葉は避けて下さい。また、全盲の方に、その方向を指差して教えることも役に立ちません

環境の変化
何か環境に変化があっても、視覚障害者にはわからない場合がありますので、黙って行動せずに、なぜそのような行動をとるのかなど、その理由を説明して下さい。例えば、歩道上に何か障害物があって、よけるためにやむを得ず車道を歩行しなければならない場合などです。また、視覚障害者によっては、急に方向を変えたりせずに、「右に寄ります」、「次の角を左へ曲がります」などと一声かけてから行動するようにしてほしいと言う方もいますので、必要かどうかを尋ねておくとよいでしょう。

雑談をしよう
誘導で歩いている時は、可能であれば周囲の風景の説明をしてあげるなど、雑談をして楽しく歩くようにする方がよいでしょう。

街で視覚障害者を見かけたら
街で視覚障害者が白杖を使って歩いていれば、「お手伝いしましょうか」、「誘導しましょうか」などと必要に応じて声をかけて下さいと前述しましたが、特に、以下のところや場面は危険ですので注意してあげて下さい。
@特に転落の危険があるホームや下り階段。A大型トラックが駐車している付近、歩道橋の裏側、看板等の上半身に突き出ている物があるところ。B無謀な走行をする自転車やバイク、無理な歩行をする通行者が多い場所。
しかし、中にはいつも歩いている所やよく知っている所で自信を持って歩行している視覚障害者もいます。迷っている様子でなく自信を持って歩いているようであれば、特に声をかける必要はありません。見守ってもらえればけっこうです。視覚障害者に対しては、特別な声のかけ方があるわけではありませんので、気軽に声をかけ必要であれば道を教えたり誘導をしてあげたりしてあげて下さい


点字ブロック 点字ブロック
歩道や駅のホームに設置されている点字ブロックは、歩道で視覚障害者を誘導するものです。点字ブロックには、2種類あり棒線は「進め」、点は「注意」を意味します。点字ブロックの上に自転車を止めたり、物を置いたりすると視覚障害者にとっては大変危険ですので、絶対にしないでください。
終わりに
最後に視覚障害者の誘導は、以下の4つの条件を満たしていることが大切です。
@安全性(安心感)A能率性(効率的、効果的)Bみための自然さ C視覚障害者、誘導者の両者にとってのやりやすさです。この条件は、@の安全性が第一となるのは言うまでもありません。この視覚障害者の手引きは、安全第一で進めていくのは言うまでもありませんが、その安全性は手引き者が適切に判断することによって確保されます。さらに、ここで説明した方法は基本的なものですので、実際の誘導にあたっては、その場に応じて判断しなければならないことが数多くあります。そのため、誘導者には常に、確実で適切な判断力が要求されます。その判断の基準となるのが上記の4つの条件です。視覚障害者の中には、手引きの方法にあまり慣れていない方がいます。また、内容によっては個人によってその方法が異なる場合があります。そのため、方法が異なる場合には、どのようにして欲しいのかを視覚障害者に確認して下さい。視覚障害者の中にはここで説明する手引きの方法を知らない方もいますので、その時は必要に応じてこの方法を教えてあげて下さい。TOPへ