逝きし友へ

連絡

今日、病床より友から連絡があった。

『どう?

『うん、もう時間がないって』

絶句しそうな心を奮い立たせて言う。

『なに言っているのよ。頑張れよ』

私こそ、何を言っているんだか・・

ずっと頑張って来た友にさらに頑張れという残酷さ。

自己嫌悪。

お互い、深刻な言葉が軽い会話で通り過ぎて行く。

お互いの元気な声が心の中で空回りして行く。

辛い時間。

9年前に無二の親友を失った。

心臓の半分をあげてもいいと思うほど大切な友を。

私はまた友を失うんだね。

彼女達と共有した青春の記憶が

また一つ消えていくんだね。

彼女達としか埋める事の出来ない記憶の欠片。

ぽっかりと穴の開いた記憶からはなにも見えない。

吹きすさぶ記憶の穴を私はどうやって埋めたらいいんだろう



笑って・・・

あなたに笑って会いに行こうと思う。

時間がない・・というあなたに

今でもどんな顔をして会いに行けばいいのか・・

心は乱れるけれど 笑って会いたい。

あなたと初めて会ったのは中学一年の春。

引っ込み思案の私。人の輪に、なかなか入れない私。

そんな私に最初の話しかけてくれたあなた。

あなたがいたから学園生活が楽しかった。

あの時はみんな輝いていたよね。

その遠い時の向こうに、辛い再開があるなんて気づきもしなかった。

時が過ぎ、まだ見送らなくてもいい年なのに・・

学友も三人も見送った。

あなたまで見送りたくはない。

もう少し、もう少し時を過ごそうよ。

あなたともう少し、もう少し同じ世界にいたいよ。

だから笑って会いに行こうと思う。


あなたは変わらなかった・・

あなたは変わらなかった。

あなたの笑顔は昔と少しも変わらなかった。

時間がないなんて忘れるくらい優しくて穏やかな時間

あなたと過ごす時間はいつもそうだね。

2人ともそれでも未来の話はしなかった。

明日なんて何の意味もない。

今、こうしてあなたと過ごす時間が

今の私達にはすべてだね。

それでいいんだと思う。

今あなたといるこの時間だけが愛おしくて大切。

明日、あなたといないかもしれない時間なんか

今は考える事はないんだね。

昔と変わらないあなたの笑顔が

あなたと過ごした時間の宝物



あなたを抱きしめさせてください

あなたを抱きしめさせてください。

私は今、あなたを抱きしめたいのです。

男と女ならそこに欲望が存在するから自然に肌のぬくもりを求められる。

でもあなたと私の友情という愛にはそんなもの存在しなかった。

今まであなたに触れることもなかった。触れようともしなかった。

数年前、友を失った。

私は深い信頼と友愛の前にひれ伏して神に願った。

彼女のぬくもりをください・・と。

そこには深い後悔だが残った。

私の指先に彼女のぬくもりの記憶さえないことに悲しみが残った・・。

だから、死を覚悟したあなたに願います。

あなたを抱きしめさせてください。

1人残される私のためにあなたのぬくもりの記憶をください。

私はこれから歩く未来の道をあなたのそのぬくもりを頼りに歩きましょう。

あなたに出会った優しい記憶とぬくもりを頼りにこれからも歩きましょう。

私の命のロードが続く限り。

だからあなたを抱きしめさせてください。


訃報

もうすこし あなたと話していたかった

もうすこしあなたを見つめていたかった。

もう少しあなたの時間をくださいと神様に言いたかった。

でもあなたはすべてを受け止めていたよね。

そんな風にすべてを受け入れたあなたが私は悲しかった。

そんなに静かな目をしないで。もっと悲しくなるから

あなたは言ったじゃない。

10年前、私の親友が亡くなったとき

泣きじゃくる私にあなたは言ったよね。

『私があなたのそばにいるから元気出して』

私はどんなに安心できたか・・

私はどんなにか心が安らいだか・・

だのにあなたまで私を置いて先に逝くんだね。

心はまだあなたの死を受け入れられない。

でもね・・・

先に言った友にに頼んでおいたよ。

あなたがもうすぐそっちに行くから

友情の炎を照らして

あなたが道に迷わないように

彼女の足元を照らしてあげてね・・と。

きっと彼女はあなたの足元に

道しるべを照らしてくれるでしょう。

いつか私も行く道です。

その時は2人で私の道しるべを照らしてください。

約束ね。

だからそれまで2人で仲良く待っていてね。







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