多摩川右岸崖線緑地保全計画(提案)


1.本計画の目的
 多摩川中下流には、多摩川自身がつくり出した沖積低地が川の周りに広がっている。さらにその外側には、左岸側に武蔵野台地を削って形成された国分寺崖線や立川崖線があり、雑木林が残っている所が多い。一方、右岸側にも多摩丘陵や下末吉台地を削ることによって形成された、同様の崖や急傾斜地が続いている。
 崖線にある緑地は、都会という特異な環境に残された貴重な自然環境である。また、帯状に残すことによって緑地同士をつなげる回廊の役割を果たしている。さらに、川と丘陵の上部にある緑地との中間にあることにより、双方を行き来する野鳥の中継地になるばかりか、川から至近距離にある崖線の緑地はサギ類の繁殖に適しているなど、多くの種類のいきものを供給する拠点となっている。この緑の存在は都市において、いきものの多様性を維持する上で極めて重要で、かけがえのないものである。
 しかし近年、建築技術の向上により、こういった崖線でも開発が可能になってきた。現在、平地のほとんどで開発がし尽くされているため、新たな開発は崖線に及んでいるのが現状である。しかも、右岸崖線には特に大きな保全計画がないまま、現在もこのような緑地は減少しつづけており、なんらかのビジョンを持って緊急に崖線の緑地を保全する必要がある。
 そこで、ここに多摩川右岸崖線緑地保全計画と称した提案を行い、開発から崖線の緑地を広域的な帯として東京都・神奈川県と建設省が連携した保全をおこない、そこを利用するいきものたちを守るとともに、今後、崖線緑地を残すことによる、いきものと我々人間との共存を目的とする。

2.今回、対象となる多摩川右岸崖線の位置(図1参照)
 東京都日野市高幡〜神奈川県川崎市高津区子母口
(該当自治体:川崎市高津区・多摩区、東京都稲城市・多摩市・日野市)

3.右岸崖線において位置付けられる緑の拠点(図2参照)
 高津区下作延周辺・生田緑地・よみうりランド東側・大丸用水堰堰上湿地・霞が関緑地・百草園・多摩動物公園など。

4.保全の手順
 広域的な保全の手順として、次の順序で緑の拠点を保全をしていくことを提案する。
1)大丸用水堰堰上湿地周辺(東京都多摩市・稲城市)
2)稲城市内の崖線にある緑地
3)日野市内の崖線にある緑地
4)神奈川県川崎市内の崖線にある緑地
 上記のように、大丸用水堰の堰上湿地周辺をを手始めに、上流側、下流側に同様の保全の範囲を広げることが望ましい。

5.保全の現状
 本崖線地域で行われている現在の有効な保全策は、都市計画公園・緑地、緑地保全地区、(都指定)緑地保全地域、(市町村指定)保存樹林、保安林。ただし、その面積は崖線緑地の保護をする上では足りず、さらに保全地を増やしたり、新たな制度で保全していくことも必要である。

6.考えられる保全策
○いきものの多様性を維持する上で重要な緑地の計画的保全
 いきものの多様性を維持する上で特に重要と認められる緑地では、その地域で行われた調査に基づき、適切な方法での保全を積極的に行う。国や地方自治体指定の天然記念物に指定することや、現在の保全策に合わせた緑地保全地区などの指定などを行うことが望ましい。生態学的に重要な緑地とは、環境庁のレッドデータブックに掲載されているなど、絶滅が危惧されている種が利用し、密接な関係にある緑地であること。それ以外の生き物が繁殖地として利用している場合もそれにあたる。
○その他の緑地の、公的保全推進
 買上、借受などの他、保全協定緑地として所有者と協定を結んだり、市街化区域だったところを市街化調整区域にして、緑地保全に関して税制上の優遇をはかる。また、緑地を保全する形で公園化を行い、いきものとふれあうことのできる公園があれば良い。
○建設省、関係自治体が連係した広域的な保全
 この崖線は、川崎市と稲城市、多摩市、日野市にまたがっており、そのどこかが保全を怠ると、この保全計画の意味をなさなくなる。そこで、広域的な連携をとり、この崖線を保全する必要があるだろう。
 また、大きな意味での氾濫原を含む河川区域と、丘陵の上部に存在する緑地を利用するいきものが、この崖線を利用していることから、双方の環境も保全する必要があり、該当する自治体だけでなく、河川管理者の連携も必要であろう。
○パートナーシップによる緑地の管理
 保全地区となった場所では、必要に応じて緑地の管理を行政と市民が協力して緑地を管理する。パートナーシップとは、「緑地を保全、管理する」といった同じ考え方のベクトルを持った行政と市民が、共にその目標に向けて作業を行うというもの。例えば、市民でできる範囲はボランティアで作業をし、大掛かりな作業や市民の手におえない作業は行政が行うというもの。行政主導で市民に対し、作業の依託契約を結ぶようなものではない。
 作業内容は、清掃作業、下草刈りなどの雑木林管理作業が主体となる。ただし、いきものの多様性を維持する上で重要な緑地はその限りでない。

7.最後に
 以上、おおまかな計画の概要を提案したわけであるが、この計画をベースに多摩川右岸崖線緑地の保全に関して個別の提案させていただきたいと考えている。また、この計画が現在策定中の東京都景観条例や、市の総合計画、都市計画などに盛り込まれるよう、要望いたします。


ほぼ全文を掲載しています。図表に関しては準備中。

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